Y-86 散りてなお

いつの日か 帰らむと 想い描く景色は
現し世にもう無いのに 誰も消し去れはしない
いつか来た道を たどり橋渡れば
何事もない賑わいに紛れ 忘れゆく
散りてなお 咲いている 君の面影胸に
またひとり 歩き出す 金色に頬を染めて
松任谷由実「散りてなお」    
オリジナルアルバム『深海の街』より

この曲は、角川映画『みおつくし料理帖』という映画のために書き下ろされた手嶌葵への提供曲で、リリースされた数週間後に発売された『深海の街』ですぐにセルフカバーされた曲。
監督である角川春樹から「春よ、来い」を超える曲を作って欲しいというオファーを受けて、この曲を作ったのだとか。
映画は見ていないのだが、何となくストーリーは知っていて、その映画のストーリーに即した内容になっています。
だが、ユーミンの曲というのは、映画に即しながらも、誰もの心に深い印象を与えるところがすごいと思います。
この曲は志半ばでこの世を去ってしまった人へのレクイエムともいえるでしょう。
でも、その人のことを忘れはしない。そして、その人の分まで生きている者はしっかりと生きて行かなくてはいけないと歌っているのではないでしょうか。
死を描きながらも、そこに希望を残しているところがユーミンワールドの素晴らしいところ。
ぼくはこの年齢にしては比較的多くの同年代の人たちを見送ってきました。
だからこそ、この曲は胸に響くのです。
深海の街ツアーでこの曲を聴くたびにぼくは泣けて泣けてしかたありませんでした。
でもそれは悲しさと同時に、愛しさだとか力強さも感じるものでした。
ユーミンのバージョンでは鈴の音が入っていますが、それもまた死んだ人たちへの弔いの音のようにも聞こえてきて、この曲を聴くたびにジンとするのです。
「春よ、来い」を越えたかどうかは今の時点ではわかりませんが、でも、「春よ、来い」とともに歌い継がれる歌になって欲しいなと思います。


<用紙&インク>    
KEN'S NIGHT 五線譜箋<夜桜摩天楼>    
KEN'S NIGHT 1st Track 12 Moon River